知財研フォーラム 2012 Spring Vol.89(2012年5月発刊)

フォーラム89号
在庫なし
 本号では、「知財マネジメント人材育成」と題した特集を組んでおります。我が国の国際競争力強化のためには、知財マネジメントを巧みに実践的に活用できる人材の育成・確保が必要であることは論を待たないことであります。折しも知的財産戦略本部では「知財人財育成プラン」の策定にむけた議論がなされており、その中では、知財人財育成の在り方として、将来像をしっかり見据えた上で、中長期的視点での戦略を策定し、着実に実施することが重要であるとされています。
  そのような背景の下、本特集は、このような国家的な規模で中長期を見据えて着実に実施すべき施策について、知財研フォーラムが知財関係者間での議論を深めるきっかけとなることを意図して企画したものです。
 また、各国のスマートフォン訴訟等において注目されている画面デザインの保護についての寄稿や、中国の法改正・判例紹介ではフォントの著作権侵害について掲載しております。
Contents
巻頭言
奥村 洋一 (Yoichi Okumura) 〔武田薬品工業株式会社 知的財産部長〕
【特集】知財マネジメント人材育成
4 知財専門人財から知財活用人財へ
― イノベーションとビジネスモデルを支える知財マネジメントの変容 ―
  妹尾 堅一郎 (Ken Senoh) 
〔特定非営利活動法人 産学連携推進機構 理事長〕
産業がグローバルかつ加速的に変容している。そのため、従来の権利化を中心にした古典的知財マネジメントだけでは対応できなくなった。次世代の産業生態・事業業態・商品形態のモデルを想定した革新的な知財マネジメントの開発が求められる。その時、従来の知財専門人財に加え、知財活用人財の育成が急務である。本論では、この知財マネジメントの変容と知財人財育成そのもののイノベーションについて議論を行う。
13 10年先を見据えた 「知財人財育成プラン」の概要について
 
中野 宏和 (Hirokazu Nakano) 
〔内閣官房知的財産戦略推進事務局 参事官補佐〕
2012年1月に、政府の知的財産戦略本部「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会」において取りまとめられた「知財人財育成プラン」の概要について紹介する。本プランは、グローバル・ネットワーク時代において、我が国の競争力を強化するため、今後10年間を見越して、国として取り組むべき中長期的な方向性と、知財人財育成の具体策を示すものである。
19 アジアの知的財産専門人材育成を目指す
  石井 正 (Tadashi Ishii)
 〔知的財産大学院協議会 会長/大阪工業大学 名誉教授〕
知的財産に関する教育研究を推進している8大学院が協議会を組織して、連携協力によりアジアの知的財産専門人材の育成に取り組もうとしている。当面の課題はこれら大学院が単位互換制度を活用し、アジアからの留学生に対して英語による知的財産専門教育を分担して推進していくことである。このため各大学院において知的財産に関する英語講義科目を開発し、大学院間におけるカリキュラムの共通性・統合性を拡大したうえで、単位互換制度を実現することが求められる。段階的な実施として2012年には夏期に台湾等アジアからの短期留学生を迎えて、知的財産大学院連合セミナーを開催する。
27 モノづくり企業における知財人材の育成
 
福島 能久 (Yoshihisa Fukushima)
 〔パナソニック株式会社 常務役員/知的財産権本部長〕
産業構造がグローバルに大きく変化する中で、モノづくり企業が新たな成長を目指すには事業構造の大胆な革新が不可欠である。この変化を新たな生成発展の好機と捉えて変革に挑戦する知財人材が今求められている。次代を担う知財人材は、多様性を受容し変化適応力に秀でた組織の中で、様々な現場経験を通じて個人の「強み」を磨き続ける挑戦から育まれる。
31 経営に資する知的財産マネジメントと知的財産マネジメント人材像
 
小林 誠 (Makoto Kobayashi)
 〔デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社
コーポレートファイナンシャルアドバイザリー/知的財産グループ ヴァイスプレジデント〕
事業戦略、研究開発戦略、知的財産戦略の三位一体による知的財産経営が提唱されるようになって久しいが、本稿では、これに経済的な「財務・会計」の観点を加えた、四位一体の知的財産経営について提唱したい。また、財務的な観点が必要となる知的財産関連業務の事例について紹介し、知的財産経営の実践に必要なスキルと知的財産マネジメント人材像についても言及する。
【寄稿・連載】
40 画面デザインの保護の拡充について
― 懸念を乗り越え、我が国意匠制度をさらに育てるために ―
 
小林 徹 (Toru Kobayashi) 〔特許庁 知的財産研究官〕
画面デザインの重要性が高まる中、我が国の意匠法によるその保護範囲が、諸外国に比して格段に狭いというのは産業発展のインフラとしての知的財産制度の在り方として決して望ましい状態ではないと思われる。そして、その大きな原因が、サーチ負担の増大などユーザー側の懸念にあるのであれば、是非、それにきちんと応えていく(「誤解を解く」あるいは「解決策を提示する」)ことにより、議論を前に進めていくことが必要と考える。
46 中国不正競争防止法の模倣対策への効果的活用と改正概況
 
分部 悠介 (Yusuke Wakebe) 
〔IP FORWARD代表 日本国弁護士〕
模倣問題は、中国を中心に世界中を席捲しており、近年、業種を問わず、模倣業者の手口は巧妙化しており、商標法等の知的財産権法で対応しきれない事象も増加していて、不正競争防止法の重要性が相対的に増してきているが、権利者企業の多くは、これを十分に活用しきれていない印象がある。折しも、現在、多くの主要な知的財産権法が改正過程にあり、不正競争防止法も改正作業中であり、今後、同様に改正が進行している商標法、著作権法と同様、公に意見募集される可能性もある。かかる状況に鑑み、本稿では、不正競争防止法上の模倣対策規制、及び、同法の改正の概況について紹介する。
52 Global-Tech Appliances, Inc., et al., v. SEB S. A. 合衆国最高裁判決について
― Willful Blindnessに注目して ―
 
奥邨 弘司 (Koji Okumura)  〔神奈川大学 准教授〕
大江 修子 (Nagako Oe)  〔TMI総合法律事務所 弁護士〕
特許権の積極的誘導侵害においては、被疑誘導侵害者が、第三者による「侵害」を誘導することを意図していなければならず、そのためには被侵害特許権の存在を認識することが必要であると判示した本最高裁判決は、前記認識について故意の無知(willful blindness)でも足りるとの注目すべき判断を示した。本稿では、故意の無知に焦点を合わせて、本最高裁判決を分析する。
62 判例研究⑦
パブリシティ権の法的性質と侵害の判断基準
― ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成24年2月2日)―
 
松田 俊治 (Shunji Matsuda) 〔長島・大野・常松法律事務所 弁護士〕
中島 慧 (Kei Nakajima) 〔長島・大野・常松法律事務所 弁護士〕
本判決は、パブリシティ権の法的性質及び侵害の判断基準について判示した初めての最高裁判決であり、法理論上も実務上も重要な意義を有する。パブリシティ権の法的性質については、いわゆる人格権説を採用したものとみられ、この点が、パブリシティ権の譲渡・相続の可否といったパブリシティ権をめぐる様々な論点にいかなる影響を与えるのか注目される。侵害の判断基準については、従前の多数の裁判例と同様、肖像等の使用行為が「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる」か否かを基準とするが、この基準を満たす場合として三類型を例示した点に特徴がある。かかる例示が侵害の成立範囲に関する議論にいかなる影響を与えるのか、今後の裁判例及び学説の議論の動向に注意が必要である。
73 韓国改正・判例研究⑤
医薬品剤形特許の有効判決後に薬価が回復した最初の事例
― 特許法院2011年8月12日言渡2010ホ7488判決―
 
金容甲 (Yong-Gab Kim) 〔弁護士(韓国)〕
金晶妍 (Jung Yeon Kim) 〔弁理士(韓国)〕
77 中国の法改正・判例紹介⑦
フォントに係る著作権侵害事件について
― 方正公司がP&G公司を訴えた「飄柔」著作権侵害事件(二審)―
 
〔北京魏啓学法律事務所〕
   84 第72回ワシントン便り
  諸岡 健一 (Kenichi Morooka) 〔(一財)知的財産研究所 ワシントン事務所 所長〕
   知財研NEWS

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