知財史資料[高橋是清遺稿集]
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知財研では、特許庁普及支援課のご協力の下、特許庁図書館所蔵の「高橋是清氏特許制度ニ関スル遺稿集」(全7巻)より、我が国の産業財産権制度の発足に関わる貴重な文献を、ホームページ上で紹介しています。
- 1. 「高橋是清氏特許制度ニ関スル遺稿集」(全7巻)について
我が国で最初の特許法である「専売特許条例」が公布・施行されたのは明治18年、同じく、「商標条例」が公布・施行されたのはそれに1年先立つ明治17年ですが、初代特許局長としてこれらの立法及び制度運営の指揮をとっていた、いわば我が国産業財産権制度の生みの親ともいえる高橋是清氏が所蔵していた資料の数々が、昭和9年秋に、同氏から、特許局(当時)に寄贈され、現在は、特許庁図書館に「高橋是清氏特許制度ニ関スル遺稿集(全7巻)」として、保管されています。
「遺稿集」の資料の多くは、条例草案、上申書・通知書、講演草稿など、当時の立法、行政に関する公文書です。特許局は、関東大震災の被害で震災以前の資料・文献を一切消失してしまっていたので、高橋是清氏から寄贈されたこれらの古文献は、我が国産業財産権制度の歴史を知る上で非常に貴重な資料となっています。特許庁では、高橋氏から寄贈された原文献を逐一タイプ浄書したものを編纂し、また、それをマイクロフィルム化して、それぞれ閲覧に供しています。
原文献は、一部毛筆で著された古文献で、複写、電子化には適さないため、本ホームページでは、特許局編纂のタイプ浄書版を底本として当研究所でワープロ浄書したものを掲載いたします。これに併せて、原文の体裁を崩さないよう配慮しつつ、現代かな使いに改めるとともに必要に応じ難解語にふりがなを付す等読者の便宜に供する工夫を施しました。
本記事が、産業財産権制度への更なる理解の一助となれば幸いです。
- 2. 「高橋是清氏特許制度に関する遺稿整理の件」(遺稿集第1巻 全2頁)
特許法施行50周年記念事業を機として、昭和9年10月30日に、高橋是清氏から特許局に、氏が所蔵していた立法関連資料を寄贈されたこと、資料の引き継ぎにあたっての氏と特許局との申し合わせについて記されています。
なお、氏から特許局への資料寄贈にまつわるエピソードについては、御厨貴「『高橋是清遺稿集』とその周辺」特許研究No.5 24~25頁(1988年)などに詳しく紹介されています。
-「高橋是清氏特許制度に関する遺稿整理の件」-(82KB)
- 3.「明治四十一年発明協会に於ける講演『我国特許制度の起因』」(遺稿集第4巻
29 全30頁、工業所有権雑誌第32号(明治41年6月3日発行)所載)
明治41年発明協会での講演録です。同会の名誉会員に推薦された高橋氏は、我が国にお ける特許、商標制度創設の経緯について講演しました。
当初文部省の通訳職にあった高橋氏が、特許、商標制度に初めて関心を持つきっかけとなったヘボン博士の版権保護問題に始まり、その後農商務省に異動して商標条例、専売特許条例の制定に携わった経緯、欧米調査派遣や帰朝後の庁舎問題・予算問題・審判制度創設などにおける苦労話やその中で発揮される高橋氏の交渉手腕などについて、生き生きとした語り口で著されています。
また、講演の最後で紹介されている、当時、外国人にも特許、商標権を付与するための条例改正をするようにとの命令が井上馨農商務大臣からあったのに対し、高橋氏は、外国人への権利付与は、将来の不平等条約の改正交渉のための取引材料にするべく留保しておくべきであると強く主張しこれを拒んだ、という話は、この講演録以外では知られていない貴重な歴史的証言ともいわれています。
(参考:高橋是清著・上塚司編『高橋是清自伝(上)』182~266頁。 丸山亮「高橋是清遺稿(1)『我國特許制度の起因』講演(明治41年)」特許研究No.27 43 ~51頁(1999年))
- 4. 「昭和9年9月29日華族会館に於て 高橋是清閣下講演 特許局の思出(要旨)」(特許法施行五十年記念会 全27頁)
特許法施行50周年、そして新庁舎の竣工なった昭和9年秋に、華族会館(現:霞会館)において行われた講演の要旨です。この講演に先立つこと1か月あまり、高橋氏は、多忙の中でも時間の許す限り、自宅に保管されていた50年前の立法関係書類を整理しました。講演内容は、我が国で最初の商標条例・特許条例の制定、海外調査派遣、帰朝後の条例改正、特許局創立に関するもので、上述の『我國特許制度ノ起因』と重複する部分も多いですが、これらに関する経緯が、時系列に、よりきめ細かく著されています。西郷従道、森有禮、箕作麟祥、黒田清隆、井上馨など、時の政界・学界の大物を相手に、特許制度の創設の意義や特許局の将来を説く若き高橋氏の言葉には、現代にも通じるところがあると思います。
- 5.「特許局将来の方針に関する意見の大要」(遺稿集第6巻、全32頁)
制度導入から数年を経た明治23年、高橋特許局長は、特許、意匠、商標の三条例の設立趣旨及び効果について総括するとともに、特許局の将来の方針について論じています。意見の大要は、「(第一)特許意匠商標三条例の基因及び効果を叙述し以て将来の方針を論ず」、「(第二)審判及び審査に関する現今の制度並びに其得失を論ず」、「(第三)特許局の組織局員の待遇法及び事務執行の方法を論ず」)の三部構成になっています。
(第一)では、特許条例が我が国殖産上にいかなる効果を及ぼしたか、商標条例が英米法の使用主義によらずドイツ法の登録主義を採用した理由など、制度導入の根幹に関わる言及や、社会に大きな利益をもたらす発明をした者に対しては、独占権を付与するのみならず、その名誉を永く表彰する制度の必要を説いています。(第二)では、将来にわたっても審査主義を維持すべきこと、(第三)では、特許局を独立の組織とし収支相償を旨として事業を行うべきこと、審査官の独立を確保すべきこと、などが述べられています。
-「特許局将来の方針に関する意見の大要」- (770KB)