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目次PDF | 本号では、「新たな新興国の知財リスク対策」と題した特集を組んでおります。リーマンショック以降の世界的な景気低迷の中でも、新興国市場は引き続き高い経済成長を続けており、各国企業は新興国への進出を活発化させています。一方、知財リスクについては主に模倣品対策が着目されてきたにすぎませんでした。しかしながら、知財リスクは模倣品対策だけではなく、新興国へ製造拠点を移転している企業にとってはノウハウや技術の流出をいかに防ぐか、さらに、国家間の関係が知財政策に与える影響、政情不安定な国や知財保護が未成熟な国においていかに知財権を取得し、活用するかについては十分に理解されているとは言えずこれから大きな課題となることが想定されます。そこで、現状の知財リスク管理についてその状況を整理するとともに、今後発生するであろう知財リスクについていかに対応していくかについて事前に検討することが重要になってきております。 このような背景の下、「新たな新興国の知財リスク対策」と題する特集を組み、国内の知財関係者をはじめとする読者に、我が国の総合的・戦略的な知財戦略の強化の重要性が啓発できるような特集となることを企画しました。 |
Contents | |
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巻頭言 |
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柴田 光義 (Mitsuyoshi Shibata) 〔古河電気工業株式会社 代表取締役社長〕 | |
【特集】新たな新興国の知財リスク対策 | |
3 | 新たな新興国における事業展開の要諦 ― 知的財産マネジメントの視点から機会とリスクを評価する ― |
渡部 俊也 (Toshiya Watanabe) 〔東京大学 政策ビジョン研究センター 教授〕 | |
日本企業にとって重要となるアジア新興国を中心に、そこに進出することの経済的な意義、またその進出目的の類型と知的財産リスクの種類を整理して、それぞれのリスクに対する対策を行う上での基本になる考え方を述べた。 | |
12 | 東南アジアにおける知財リスク |
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今日、改めて注目され、日系企業が更なる進出を図るASEAN 各国であるが、模倣品、海賊版問題をはじめとして、そこには知的財産に関わる様々な課題が存在する。本稿においては、そのような課題を網羅することはできないものの、それらの一部を紹介する。 |
20 | インド進出における 「知財リスク」の現状と課題 |
山名 美加 (Mika Yamana)
〔関西大学法学部 教授/Tribhuvan University 客員教授/The Indian Law Institute 客員研究員〕 |
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本稿は、インド進出における知財リスク(特に現在インド進出企業において懸念されていると考える事項)として、インドにおける紛争解決の現状、そして、特に近年発動されて注目が高まる強制実施権、Novartis事件でクローズアップされた特許法3条(d)(不特許事由)について紹介した上で、筆者なりの見解をまとめるものである | |
28 | ロシアにおける知財リスク |
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ロシアの知的財産制度はWTO・TRIPSを遵守したものとなっており、法制度上、特別に問題となる条項は存在しない。裁判所における訴訟手続は、比較的迅速に行われ、費用も高額ではないので、侵害事件の解決手段として有効である。ライセンスは、登録が効力発生要件になっているので留意が必要である。 | |
37 | ブラジルにおける訴訟の留意点 ― 手続法に関する諸問題 ― |
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本稿ではブラジルにおける訴訟の最初の方に関する留意点として、注意すべき手続法のポイントについて取り上げる。訴訟はだいたいどこでも時間とコストがかかる。それをできるだけ減少するために、民事手続法を中心に、数ある注意点の中で訴えを提起する前に検討すべき重要な点を解説する。どこで訴訟を提起すべきか、それに伴う流れは如何なるものか。さらに、請求するにあたって欠かせない仮処分の請求についても説明する。最後に、同時に2つの訴訟(無効訴訟と侵害訴訟)が提起された場合の注意点についても指摘したい。 | |
【寄稿・連載】 | |
46 | ハーグ協定ジュネーブアクトが意匠制度に投げかけた課題 |
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ハーグ協定ジュネーブアクトには、一件の出願で、複数国における出願日を確保できるという大きなメリットがあるが、さらに、国際登録とその公開、複数意匠一括出願制度の採用と処分や料金納付の出願単位の処理など、単なる「受付窓口」機能を超えた、一歩踏み込んだ内容が含まれている。これらは、我が国のような実体審査国が、加盟の準備を進めるに当たって、国内制度との調整など慎重な検討を要する重要な課題を投げかけている。 | |
53 | 欧州における商標の動き ― IP TRANSLATOR事件を巡って ― |
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欧州連合では、商標に関する加盟国の法律を接近させるための商標指令及び共同体商標規則のもと、共同体商標と各国商標の2 つの登録制度が並行して存在するところ、商標権の権利範囲を定める指定商品・サービスの表示として使用されるクラスヘディングにつき各国当局で異なる解釈がなされていた。これに対し、2012 年6 月、欧州連合司法裁判所で重要な判決が出た。同判決を巡り、その後OHIM、WIPO で通知が出され、商標権者、各国当局にも大きな波紋を広げている。本稿では、その現状を報告する。 | |
60 | 中国税関における知的財産保護制度の概要 |
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中国にはあらゆるジャンルの模倣品が製造、販売され、日本企業の模倣品も多いことは周知の事実であるが、多くの模倣品が中国以外のアジア、新興国を中心とした海外に輸出されており、世界経済の重心が、アジア、新興国に移りつつある中、中国製模倣品の問題は、もはや中国だけではなく、これらの国に進出する際にも考慮しなければならない問題となってきている。この点、世界中に流通している多くの模倣品の製造元が中国であることから、中国税関における知的財産保護制度を効果的に活用して、中国から海外への模倣品の流出自体を止めることは、グローバルレベルでの模倣対策の効率的な実現にもつながる。本拙稿では、中国の水際制度の概要を紹介するとともに、実務上、よく問題となる点についても幅広く言及する。 | |
70 | 判例研究⑧ 被疑侵害者の取引先に対する知的財産権侵害の告知と信用毀損行為 ― 東京地判平成24年5月29日(平成22年(ワ)第5719号)・裁判所ウェブサイト ― |
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知的財産権を保有する権利者が、被疑侵害者の取引先に対して、当該被疑侵害者が権利者の知的財産権を侵害している旨の告知を行った場合において、その後に、裁判所により権利非侵害の判断がされたときには、当該告知行為が不正競争防止法2 条1 項14 号所定の不正競争行為(信用毀損行為)に該当し、損害賠償請求の原因となるかどうかが問題となる。この点については、従前、裁判所により権利非侵害の判断がされた場合には直ちに信用毀損行為に該当することを前提に、損害賠償請求の可否を専ら過失の有無の問題として検討する裁判例が存在したが、近時の裁判例は、知的財産権の正当な行使と評価し得るかどうかを検討し、正当な権利行使と評価し得る場合には信用毀損行為に該当しないとする、いわゆる権利行使論によるものも多くなっている。本判決は、告知者の行為を信用毀損行為に該当するものとしながら、告知者に過失がなかったとして、損害賠償義務を否定したものであるが、本判決の判断手法及び結論には、疑問がある。 | |
80 | 中国の法改正・判例紹介⑩ 知名商品(役務)特有の名称及びその権利侵害の要件に関する分析 ― 開心人公司と千橡互聯公司及び千橡網景公司間における不正競争紛争事件 ― |
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ソーシャルネットワーキングサイトは、新興のネットワーク・ビジネス・モデルである。しかし、当該モデルは、ネットユーザーに対してさまざまな便宜をもたらすと同時に、インターネット業界の競争秩序にさまざまな問題を引き起こしている。本件は、「初めてのソーシャルネットワーキングサイト競争事件」として、ネットワーク経営者、ネットユーザー及びメディアから広範な注目を集めた。本件において、裁判所は、ある程度の知名度を有しているソーシャルネットワーキングサイトが知名役務を構成し、そのウェブサイトの名称が知名役務の特有名称として、「不正競争防止法」による保護を受けられるという原則を確定した。本稿では、「知名商品(役務)特有の名称」という概念及びその侵害の要件を述べているので、中国の司法実務における知名商品(役務)特有の名称、並びに侵害の認定に対する読者の理解を深める一助になれば幸いである。 | |
86 第75回ワシントン便り | |
諸岡 健一 (Kenichi Morooka) 〔(一財)知的財産研究所 ワシントン事務所 所長〕 | |
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